河野 博隆(科長 主任教授)
阿部 哲士(客員教授)
今西 淳悟(准教授)
時崎 暢(教育学部准教授)
佐藤 健二(助教)
腫瘍診では運動器領域に発生した非上皮性腫瘍(骨軟部腫瘍)を主に担当しています。がんと診断される方は年間100万人以上となりました。骨に転移があるがん患者数も増えており、診療科横断的な診療体制の確立が急務となっています。がんの骨転移の包括的な運動器マネジメントを他科と連携して行なっています。
3年間の新規患者数は以下の通りです。
2017年 | 2016年 | 2015年 | |
---|---|---|---|
良性骨腫瘍 | 33 | 68 | 77 |
良性軟部腫瘍 | 60 | 93 | 36 |
悪性骨腫瘍 | 6 | 20 | 9 |
悪性軟部腫瘍 | 10 | 19 | 19 |
転移性骨腫瘍 | 49 | 74 | 43 |
運動器領域の骨や脂肪、筋肉、血管、神経などの軟部に発生した腫瘍を骨軟部腫瘍といいます。骨軟部腫瘍は骨腫瘍と軟部腫瘍がありそれぞれ良性、悪性腫瘍に分かれます。骨や軟部から発生する悪性腫瘍は肉腫と呼ばれ、上皮性の悪性腫瘍である癌とは区別されています。肉腫は発生が稀で、多彩であるため診断が困難な症例が少なくありません。当院では骨軟部腫瘍専門の放射線診断医、病理診断医と密に連携をとり診療を行っています。
腫瘍切除術を基本1)とし、手術の適応、切除方法、時期、再建方法、補助的治療の有無などについて疾患ごとに検討を行っています。悪性腫瘍の場合は、広範囲に切除することが第一であり、できる限り患肢を温存し、よりよい患肢機能を再建することを目指しています。適応のある症例には積極的に術前化学療法を行い、腫瘍の縮小・制御を計ります。また、骨腫瘍を安全かつ正確に切除するために、骨盤など解剖学的に複雑な部位では、コンピューターナビゲーションシステムを用いた手術を行っています2)。
1)
2)
また、骨軟部腫瘍は希少がんであることから標準的治療・新規の診断法・治療法の確立には多施設共同研究が極めて重要となっています。帝京大学では以下の共同検討会を主催、参加しています。
国立がん研究センター研究開発費研究班を中心とする共同研究グループで、国立がん研究センター中央病院臨床研究支援部門が研究を直接支援する研究班の集合体です。がんに対する標準治療の確立と進歩を目的として様々な多施設共同臨床研究を行っています。現在進行中の共同研究は以下の通りです。
特定非営利活動法人グループの一員として、希少がんである骨軟部肉腫の多施設共同研究推進・支援を目的とした活動を行っています。現在進行中の共同研究は以下の通りです。
骨軟部腫瘍におけるDNA、RNA、タンパク質や各種代謝物の質的、量的な変化について、包括的、網羅的な解析を東京大学医科学研究所を中心になって行っています。
月に1回、関東の骨軟部腫瘍専門の整形外科医、放射線診断医、病理診断医で症例検討を行っています。2018年4月の時点で265回を数える伝統的な検討会で、東京医科歯科大学・順天堂大学・東京大学・慶應義塾大学と共同主催しています。
年に4回に関東の骨軟部腫瘍専門の整形外科医で症例検討会を行っています。
近年のがん治療の進歩により、がん患者さんの生存期間は著しく延長しています。それに伴って骨転移を有する患者さんも増加の一途をたどっています。がん患者さんの予後が延長することで、患者さんのADLやQOLの維持・向上が重要視されるようになり、それに伴って骨転移診療の重要性も高まってきています。
骨転移診療に整形外科が積極的に参加することで、病的骨折や脊髄麻痺のリスクを正しく評価・管理することが可能となり、必要に応じて適時に外科的治療を行うことができます。
病的骨折や脊髄麻痺のリスク評価と管理にはチーム診療システムが不可欠であり、診療科横断的な診療チームを構築することが重要と言われています。帝京大学整形外科では、2013年からがんの骨転移に対し積極的な介入を始め、段階的に骨転移診療体制の強化と院内連携を進めてきました。2015年6月には多診療科・多職種が参加する骨転移cancer board(CB)を立ち上げ、骨転移症例に対してどのようなアプローチをすべきか検討を行うとともに、整形外科内および各診療科に骨転移診療の重要性を啓蒙しています。骨転移CBには原発担当科、整形外科、リハビリテーション科、緩和医療科、腫瘍内科、放射線科などの多診療科が参加するのみならず、看護師、ソーシャルワーカー、PT・OTなどの多職種が参加しています。
骨転移症例の評価や管理だけではなく、必要に応じて外科的治療も行っており、四肢長管骨の切迫骨折に対する予防的髄内釘固定術や人工関節置換術、脊椎転移に対する除圧・固定術等を、時期を逸さずに行うようにしています。
また帝京大学整形外科では、骨転移に関連する以下の臨床研究を行っています。
MRgFUSとは治療用の超音波を病変部に照射することで、周辺組織に損傷を与えることなく病変部を焼灼することが可能な非侵襲的局所治療法です。放射線照射やラジオ波焼灼などの局所治療や薬物療法に抵抗性の有痛性骨転移に対し、MRgFUSを照射することで疼痛緩和を得ることが可能です。骨転移に対するMRgFUSは、現在日本国内では帝京大学でのみ行うことが可能な治療法で、国立がん研究センター中央病院や都立駒込病院など、様々な施設から治療の依頼を受けています。
長年がんの骨転移は「末期」に起こる状態と認識され骨転移は整形外科が取り組むべき課題とされてきませんでした。しかし、近年の医療の進歩に伴いがんが長期に共存していく疾患となりがん患者のQOLやADLの向上と維持が求められています。当院で骨転移と指摘された患者を、経時的に観察していく事でその実態を明らかとし、また、ADLやQOLの維持に関与する因子を明らかとすることを目的とした観察研究を行っています。
海外留学も積極的に派遣しています。2017年度は佐藤健二医師が米国アルバートアインシュタイン大学に留学し研鑽を積んできました。